【2026年改正】公益通報者保護法の比較と企業の実務対応ポイントを弁護士が解説

2026年12月1日に施行される「改正公益通報者保護法(令和7年法律第62号)」について、対応や導入に悩む企業が増えています。
特に、フリーランスへの対象拡大や、通報後1年以内の解雇等に関する「不利益取扱いの推定規定」への対応など、実務への影響は多大です。
本記事では、改正法と現行法を徹底比較した上で、企業が今すぐ取り組むべき注意点や対策を、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
目次
1. 公益通報者保護法とは?現行制度の基礎知識
1.1 公益通報の定義と法的な保護の内容
公益通報者保護法における「公益通報」とは、労働者等の通報者が、不正の利益を得る目的や他人に損害を加える目的などの「不正の目的」ではなく、自らの勤務先等(役務提供先)について、一定の対象法律に違反する犯罪行為や過料対象行為(通報対象事実)が生じ、またはまさに生じようとしている旨を、所定の通報先へ通報することをいいます。
適法な公益通報に該当する場合、法律上、以下のような強力な保護を受けることができます。
通報対象事実は、刑法、食品衛生法、金融商品取引法、個人情報の保護に関する法律など、個人の生命、身体、財産等の保護に関わる法律(政令で定める数百本の法律)に違反する犯罪行為や過料対象行為です。
1.2 なぜ企業は内部通報システムを導入すべきなのか
多くの企業担当者様は、「通報窓口を設置すると、社員からの不満や愚痴などの通報が殺到し、かえって業務の負担が増えるのではないか。企業にとってメリットはないのではないか。」という疑問を抱かれると思います。
確かに、内部通報のシステムを導入することは企業にとって負担にはなります。
しかし、信頼できる内部通報システムがない企業では、トラブルが発生した際、社員が社内での自浄を諦め、SNSへの投稿やマスコミへの告発、行政機関への直接通報といった「外部通報」を選択するリスクが極めて高くなります。
ひとたびSNSや報道でコンプライアンス違反が拡散されれば、企業の社会的信用は失墜し、取引停止や売上減少、採用活動への深刻な悪影響など、取り返しのつかない大ダメージを受けることになります。内部通報システムは、「不祥事の芽を社内で早期に発見し、自浄作用によって解決するための最良の防衛策」なのです。
1.3 従業員規模に応じた義務の違い(301人以上・300人以下)
現行法、および2026年12月1日施行の改正法においても、企業が負う「体制整備義務」の範囲は、常時使用する労働者の数(事業者全体の従業員数)によって区分されています(同法11条3項)。
① 従業員数301人以上の事業者(義務化)
内部通報を適切に受け付け、調査し、是正するために必要な体制を整備する義務(体制整備義務)があります。また、これらの一連の対応業務を行う「公益通報対応業務従事者」を定める義務(従事者指定義務)を負います。
② 従業員数300人以下の事業者(努力義務)
上記の体制整備義務、および従事者指定義務について、いずれも「努めなければならない」とする努力義務とされています。
ただし、「努力義務だから何もしなくてよい」というわけではありません。今回の法改正で導入される「不利益取扱いの推定規定」や「通報妨害・探索の禁止」といったルールは、従業員規模にかかわらずすべての事業者に例外なく適用されるためです。
体制を整備しないまま放置していると、通報が発生した際のリスク管理に対応できず、結果として民事上・刑事上の法的リスクを背負い込むことになります。

2. 【比較表つき】現行法と改正法の徹底比較(2026年12月1日施行)
令和7年法律第62号として成立した改正公益通報者保護法は、2026年12月1日から施行されます。実務に直接影響を及ぼす5つの主要な改正ポイントを現行法との対比で詳しく解説します。
2.1 改正のポイント①:保護対象者の拡大(フリーランスの追加)
現行法
正社員、契約社員、派遣労働者、役員、アルバイト・パートタイマー、および退職後1年以内の労働者等が保護対象でした。
改正法
事業者と業務委託契約を締結している個人事業主、いわゆる「フリーランス(特定受託業務従事者)」、および契約終了後1年以内のフリーランスが新たに対象に加わります(改正法2条1項3号、5条)。
これにより、企業は自社の労働者だけでなく、システム開発、デザイン、配送、清掃、マーケティングなどの各種業務を委託している個人事業主やフリーランスから、委託業務に関連する法令違反等の通報を受けた場合も、通常の労働者と同様に強力に保護しなければならなくなりました。
通報を理由とした業務委託契約の解除、取引数量の削減、取引の停止、報酬の減額といった不利益な取扱いは一切禁止されます。
2.2 改正のポイント②:通報妨害・通報者探索の禁止規定の新設
現行法
通報を妨げる行為や、通報者が誰であるかを特定する行為(犯人捜し)について、直接的に禁止する明文の規定はありませんでした。
改正法
通報妨害の禁止(改正法11条の2):正当な理由なく、契約相手や労働者に対して「通報を行わない」旨の合意(誓約)を求めることや、通報をした場合に不利益な取扱いをすることを示唆して脅すなどの行為が全面的に禁止されます。これらに違反して結ばれた合意は無効となります。
通報者探索(犯人捜し)の禁止(改正法11条の3):正当な理由がないにもかかわらず、通報者が誰であるかを突き止めようとする行為が厳しく禁止されます。
2.3 改正のポイント③:通報後1年以内の不利益取扱いの「推定規定」
現行法
通報者が「解雇や降格などの不利益を被ったのは、自分が通報をしたことに対する報復措置である」と主張して裁判等で争う場合、通報と不利益処分の因果関係(報復であること)についての立証責任は、原則として通報者(労働者側)が負っていました。
改正法
通報が行われた日(または企業が通報の事実を知った日)から1年以内にされた解雇や懲戒などの処分は、すべて通報を理由としたものと法律上「推定」されます(改正法3条3項)。
この推定規定の導入により、立証責任の実質的な転換が起こります。万が一、通報後1年以内に対象従業員を他の正当な理由で処分する場合、「その処分が通報とは完全に無関係であり、客観的に正当な理由があること」を会社側が証拠で証明しなければ、その処分は無効とされてしまいます。
2.4 改正のポイント④:解雇・懲戒に対する刑事罰の新設と両罰規定
現行法
通報を理由とした不利益処分は民事上で無効となるのみで、企業や人事担当者への刑事罰はありませんでした。
改正法
公益通報をしたことを理由として解雇、懲戒免職、分限免職などの「解雇等特定不利益取扱い」を行った場合、その行為をした者(処分の決定に関わった人事担当者や役員、経営陣等)に対して「6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金」という重い刑事罰が科されます(改正法21条1項)。
さらに、両罰規定により、その行為者を雇用している法人(会社)に対しても、最大3,000万円以下の罰金刑が科されます(改正法23条1項1号)。
2.5 改正のポイント⑤:体制整備義務の強化(命令制度・周知義務の明文化)
現行法
従業員数301人以上の企業に対する「従事者指定義務」違反に対しては、行政からの「指導・助言・勧告」および勧告に従わない場合の「事業者名の公表」にとどまっていました。
改正法
命令制度の導入(改正法15条の2第2項):勧告に従わない企業に対して、是正措置をとるべきことを「命令」することができるようになります。この命令に違反した場合は、30万円以下の罰金が科されます(改正法21条2項1号)。
立入検査権限の新設(改正法16条1項):体制整備の状況を確認するため、行政機関の職員による事業所への「立入検査」が可能となります。この検査を拒否・妨害したり、虚偽の報告をしたりした場合は、30万円以下の罰金が科されます(改正法21条2項2号)。
法律上の周知義務の明文化(改正法11条2項):これまではガイドラインに規定されていた「労働者等への体制整備の周知義務」が法律上の明文化された義務へと格上げされました。
2.6 【対比一覧表】現行法と改正法の主要変更点まとめ
| 改正事項・条文 | 現行法の内容 | 改正法(2026年12月1日施行)の内容 | 企業に求められる主な対策 |
|---|---|---|---|
| 保護対象者の拡大 (2条1項3号、5条) | 正社員、契約社員、派遣、役員、退職者(1年以内)が対象。 | 現行対象に加え、業務委託先のフリーランス(および契約終了後1年以内)も対象。 | 内部通報規程の対象にフリーランスを追加し、現場担当者へ周知。 |
| 通報妨害の禁止 (11条の2) | 直接的な明文の禁止規定はなし(ガイドライン等の配慮要請)。 | 全面的に禁止。通報しない旨の合意は無効。妨害への是正命令も。 | 「通報を阻害する合意や誓約の強要」を禁止する旨を規程へ明記。 |
| 通報者探索の禁止 (11条の3) | 直接的な明文の禁止規定はなし(犯人捜しの制限要請)。 | 全面的に禁止。正当な理由なき身元の探索行為の禁止。 | 相談受付後の社内調査フローを見直し、関係者へのヒアリング方法を厳格化。 |
| 不利益取扱いの推定 (3条3項) | 因果関係の立証は原則として労働者側。 | 通報後1年以内の解雇・懲戒は、通報を理由としたものと推定する。 | 処分の理由・これまでの指導記録を綿密に「証拠化・記録化」しておく。 |
| 解雇・懲戒への刑事罰 (21条1項、23条1項1号) | 民事上の無効、差戻し。刑事罰はなし。 | 行為者:6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。 法人:3,000万円以下の罰金。 | 人事処分プロセスの分離、法務・外部弁護士による二重の適法性チェック。 |
| 命令制度・罰則の新設 (15条の2、21条2項1号) | 勧告に従わない場合の社名公表まで。 | 従事者指定義務等の違反に対する是正命令。命令違反には30万円以下の罰金。 | 従事者を確実に指定のうえで、指定漏れを排除する。万が一勧告が来た場合は是正命令に従って対応をする。 |
| 行政の立入検査権限 (16条1項、21条2項2号) | 任意の報告徴収のみ。立ち入りは不可。 | 事務所への立入検査権限を新設。検査拒否・虚偽報告は30万円以下の罰金。 | 公益通報の受付から調査・是正措置までの文書・記録管理を行い、検査がきたときに対応できるように備える。 |
| 体制の周知義務 (11条2項) | 法定指針上の定め。 | 法律上の明確な義務として条文に格上げ。 | 社内システム、ポスター、プラットフォーム等での徹底周知。 |

3. 導入・対応に悩む企業が今すぐ取り組むべき4つの実務ステップ
今回の法改正において、企業はどのように準備を進めるべきでしょうか。実務に直ちに取り入れるべき4つの具体的なステップを解説します。
3.1 ステップ①:内部通報規程の改定(具体的な規程文言案)
現在、社内規程に「内部通報規程(または公益通報規程)」を設けている企業は、改正法に合わせた改定が必須です。また、これから新規に窓口を設置する企業は、以下の改正内容を織り込んだ規程を策定する必要があります。
特に、「フリーランスの対象追加」、「通報妨害の禁止」、「通報者探索の禁止」の記載は重要です。以下は、実務でそのままコピーして使用できる追加条文の文言案です。
(通報窓口の利用者・保護対象者)
第〇条
本規程により保護される通報窓口の利用者は、当社の役員、従業員(正社員、契約社員、パート、アルバイト、派遣労働者を含む)、当社と業務委託契約を締結している個人事業主(特定受託業務従事者。以下「フリーランス」という。)、および過去1年以内にこれらに該当した者とする。
(通報妨害の禁止)
第〇条
何人も、前条に定める保護対象者に対し、正当な理由なく内部通報を行わないよう求めること、一切の社内事実を外部に漏らさない旨を誓約させること、または通報を行った場合に解雇、契約解除、取引停止その他一切の不利益な取扱いをすることを示唆して、内部通報を妨げてはならない。これらに違反して締結された誓約等の合意は無効とする。
(探索の禁止)
第〇条
当社の役員および従業員は、内部通報を行った通報者、または調査に協力した者を特定することを目的として、その身元を探索する行為(通報者の犯人捜し、関係者への執拗なヒアリング、システム上のログ解析等)を行ってはならない。
3.2 ステップ②:公益通報対応業務従事者の適切な指定と研修のやり方
従業員数301人以上の企業において、最も「うっかり違反」が起きやすいのが「公益通報対応業務従事者」の指定漏れです。
従事者の指定漏れを防ぐ:通常の窓口担当者を包括的に指定するだけでは不十分です。実際に通報があり、社内調査を開始した際、「事実確認のために臨時にヒアリングや調査を依頼し、その中で通報者の氏名や、通報者が特定される情報を伝えられた者」(例:ヒアリングを行うことになった対象部門の部門長等)についても、その都度個別に従事者として指定を行う必要があります。
研修による意識改革:従事者に指定された者は、異動や退職後も含めて、生涯にわたり「通報者を特定させる情報の漏洩」に対する厳しい守秘義務を負います。不注意による漏洩であっても、会社からの懲戒処分や民事上の損害賠償責任を問われるリスクがあります。また、故意の漏洩には30万円以下の罰金(刑事罰)が科されるため、指定時の十分な研修が不可欠です。
3.3 ステップ③:処分判断プロセスにおける「証拠化・記録化」の徹底
1年以内の「不利益取扱いの推定規定」に対抗するためには、証拠化・記録化を徹底する必要があります。仮に、通報を行った従業員が、通報後に全く別の正当な理由で解雇や懲戒処分の対象となった場合であっても、会社側が立証できなければ「通報者への報復」と推定され、処分は無効になります。
日常的な指導・評価の記録化:処分検討時ではなく、日常的な業務指示、口頭指導、面談の内容、およびそれに対する従業員側の反応や改善状況を、日付・担当者を明確にした書面(指導書、面談記録、電子メール等)で詳細に証拠化して保存しておきます。
決定プロセスの独立性の確保:「処分の検討・起案が、通報が行われる前から始まっていたこと」や、「処分の決定プロセスが内部通報窓口の部署とは完全に遮断された人事評価ルートで行われたこと」を、客観的な稟議書等のタイムスタンプで証明できるよう、フローをマニュアル化します。
3.4 ステップ④:労働者・取引先・フリーランスへの確実な「周知」
改正法11条2項において、体制を「周知する義務」が法律上の明文化された義務となりました。企業は、以下の具体的な方法で制度を周知徹底しなければなりません。
- 社内での周知:改定した内部通報規程や、窓口の連絡先(専用メールアドレス、外部委託窓口等)、通報者が不利益を被らないことの誓約などを、社内システムやプラットフォームなどの分かりやすい場所に常時掲載します。
- フリーランス・取引先への周知:新たに保護対象となるフリーランスや、出入りする委託業者の労働者に対しても周知が必要です。業務委託契約の締結時、契約書の添付書類、または取引先向けのサイト等に「当社の内部通報窓口は、お取引先様、およびフリーランスの方もご利用いただけます。」といった案内文を明記し、確実に周知します。
4. よくある質問(FAQ)
4.1 従業員300人以下の会社でも内部通報制度の整備は必要ですか?
はい、強く推奨します。
従業員数300人以下の事業者は、体制整備義務こそ「努力義務」ですが、今回の改正で導入される「通報妨害の禁止」、「通報者探索の禁止」、さらに「1年以内の処分の推定規定」、「報復処分に対する刑事罰(最大3,000万円以下の罰金)」などの各種ルールは、企業の規模に関わらず、すべての事業者に義務として一律に適用されるためです。
窓口も調査ルールもない状態で通報が発生した場合、不適切な犯人捜しや、報復を疑われる懲戒処分が行われてしまうリスクが極めて高く、経営陣が直接刑事罰に処される致命的な事態を招きかねません。そのため、努力義務であったとしても整備することを推奨します。
4.2 フリーランスからの通報があった場合、通常の窓口担当者が対応しても問題ありませんか?
基本的には問題ありませんが、事前の従事者指定が正しく行われていることが大前提です。
窓口の対応担当者が、あらかじめ公益通報対応業務従事者として取締役会や経営陣から適切に指定されていれば、フリーランスからの通報も同様に受け付けることができます。
ただし、フリーランス特有の事情(取引契約の解除など、雇用とは異なる形態の不利益取扱いが発生しやすい点)を理解し、通常の社内トラブル以上に慎重な秘密保持と不利益取扱いの排除に努める必要があります。
4.3 犯人捜しをするつもりはなくても、事実確認のために調査することは通報者探索になりますか?
「正当な理由」に基づく調査であれば、通報者探索には該当しません。
通報があった場合、企業には事実関係を調査する法的義務(301人以上)や調査に努める義務(300人以下)があります。したがって、調査のために通報内容に書かれた事実を関係者にヒアリングすることや不正の現場となった場所を調べることは「正当な理由」があり、探索禁止(改正法11条の3)には違反しません。
ただし、必要以上に「誰が言っていたか」を特定しようとする発言をしたり、通報者を絞り込む目的でシステム上の個別アクセスログを不必要に解析したり、あるいは関係者に対して「誰が告発したか心当たりはあるか」と聞き回る行為は、正当な理由を逸脱した「探索行為」とみなされ法律違反となるリスクが極めて高いため、調査の進め方はプロに相談しながら慎重に行う必要があります。
5. まとめ|改正法への早期対応が企業を守る
2026年12月1日に施行される改正公益通報者保護法は、企業にとって「不祥事を隠蔽しようとする行為」や「通報者への報復」に対して、厳しい刑事罰とペナルティを課す大幅な規制強化です。
「うちは中小企業だから体制整備は義務ではない」と対応を先送りにすることは、極めて危険です。通報窓口を早期に構築し、適切な調査体制を整えておくことは、重要なリスク管理といえます。
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企業法務チームに所属し、インターネット上の誹謗中傷対応、企業およびクリニックの顧問業務、使用者側の労働問題などを担当。
また、AI法研究会に所属し、生成AIに関する法律相談や企業対応にも取り組んでいる。











